はじめに
健康診断の際に行われる血液検査では、腎臓や膵臓、脾臓や肝臓など様々な臓器の状態を、血液検査にて調べることができます。
これらの臓器は、体内で重要な働きをしているにもかかわらず、何か不調があっても、自覚症状として現れにくいため、早期発見・早期治療に繋げるためにも血液検査が重要になってきます。特に、肝臓に関する検査項目は、一般的な健康診断でも何種類もあります。
肝臓は臓器としては大きいですが、少し痛んでいたとしても代替の細胞が代わりの役割を果たしてしまいます。特に、日常的に飲酒をされる方は、お酒に関わりがあるとされる「γ-GTP」など、多少数値が高くても自覚症状がないために精密検査を受けない方が多いようです。
しかし、肝臓は、長年の飲酒習慣や感染性の肝炎などから、肝硬変や肝がんへと移行してしまう可能性もあります。
血液検査は単体の数字だけではなく、項目それぞれが複雑に関連しあっています。医師は全体の数値を考慮して、様々な病気の可能性を考え、適切な治療指針を立てていきます。
何か重大な病気があるにもかかわらず、気づかずに取り返しのつかない状態へと進展してしまうことのないよう、健康診断で肝臓の数値に問題を指摘されたら、必ずしっかりと検査することをお勧めします。
肝臓の働き
代謝作用(タンパク質の合成と栄養の貯留)
人は、身体に必要な栄養分やエネルギーなどを食物から摂取しています。胃や腸などで消化された食物は、栄養素など必要なものを血液中に送り、不要なものは便や尿となって体外へと排泄されます。
血液に吸収された栄養分の大部分は、肝臓で使いやすい形にして蓄積しています。そして必要に応じて、蓄積した栄養分をエネルギーとして放出する「代謝」という役割を果たしています。
このとき、たとえば暴飲暴食などで栄養分を蓄積しすぎると、肝臓に不要な脂肪が溜まってしまい、エネルギーを上手く蓄積したり、放出したりすることができなくなります。
解毒作用
肝臓の働きとして、食物などで摂り込んだ物質のうち、身体に悪影響のある、いわゆる毒素を解毒する働きがあります。肝臓で分解され、不要物として分別された毒素は、尿などになって体外に排泄されます。
しかし、肝臓の働きが様々な原因によって障害されると、この解毒作用が上手く働かず、体内に毒素がどんどん溜まっていき、肝臓自体はもとより、体内の様々な臓器にダメージを与えるようになってしまいます。
胆汁の生成・分泌
肝臓の働きとして、脂肪を乳化し、たんぱく質を分解する胆汁を作り分泌することも挙げられます。胆汁には胆汁酸とコレステロール、さらにビリルビンという色素が含まれており、これらがバランス良く働いて脂肪やたんぱく質を腸から取り込みやすくする働きをしています。
しかし、肝臓が不調を起こし、胆汁の分泌のバランスが崩れると消化・吸収の働きが低下してしまいます。
また、胆汁の流れが悪くなることで、胆汁の色素であるビリルビンが体内に蓄積して、皮膚や白目、爪などが黄色くなる黄疸を起こします。
肝機能障害
原因
肝臓の障害で一番多いのは肝炎です。その中でもウイルスに感染することによって起こる肝炎が日本では最も多くなっています。
また、肝臓障害を起こす原因としてはアルコール性のもの、また薬物性のもの、自己免疫によって起こるものなどがあります。
特に、近年注目されているのは、アルコールをほとんど摂取しないにもかかわらず、アルコール性の肝臓障害と同様の脂肪肝などを引き起こす、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)と、そこから進行し肝炎を起こしている非アルコール性脂肪肝炎(NASH)で、これらは大きくメタボリックシンドロームと関連があるとされています。
肝炎が続くと肝硬変や肝がんを起こしやすい状態となります。またその他にも胆管にがんや炎症などの障害を起こし胆汁が鬱滞(うったい)することや、胆管結石などの他、膵臓などに障害を起こすこともあります。
ウイルス性肝炎
ウイルスに感染して肝臓が炎症を起こした状態です。肝臓に感染するウイルスとしてはA型からE型までありますが、日本ではD型のウイルスは見られません。日本でのウイルス感染のほとんどはB型(HBV)とC型(HCV)で、B型は性行為などの密接な接触、傷口への粘液や血液の接触、輸血や麻薬の静脈注射などが感染経路となるほか、感染した母胎からの母子感染などの経路によって感染します。またC型は性行為による感染はほとんどなく、日本では輸血や透析、消毒が不十分な状態でのピアスの穴あけ、注射器の使い回しによる麻薬の使用などで感染するため、日常生活においては、ほとんど感染することはありません。
アルコール性肝障害(アルコール性脂肪肝)
一般的に、5年以上過剰な飲酒を続けたために肝臓に障害が起こっている状態です。日本アルコール医学生物学研究会の定義では、過剰な飲酒とは、成人男子で1日あたり、純エタノールに換算して60g以上(日本酒であれば3合弱、ビールであれば500ml缶3本程度)を毎日摂取する、いわゆる常習飲酒家を指しています。また女性やアルコール分解酵素を持たないタイプの人では1日40gでもアルコール性肝障害を起こすことがあるとされています。
脂肪肝から肝炎となり、肝硬変や肝がんへと移行する危険性が高いため、禁酒や節酒が必須となります。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)(非アルコール性脂肪肝)
お酒をまったく飲まない、またはごく少量しか飲まないのに、アルコール性肝炎と同様、脂肪肝などの症状を起こしているのが非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)で、近年問題となっています。多くはメタボリックシンドロームからくる腎障害、脂質異常、高血圧などが原因となっています。またストレスや薬による副作用なども原因となります。
NAFLDを起こしている方の1~2割程度は非アルコール脂肪性肝炎(NASH)へと移行すると言われています。
メタボリックシンドロームの元となる生活習慣の改善や食事など、しっかりとコントロールしていくことが大切です。
薬物性肝障害
薬の副作用によって肝臓に障害が起こっている状態です。どんな薬物でも原因となる可能性がありますが、特に抗生物質、解熱鎮痛薬、精神神経薬、抗がん剤などで多く発症するといわれています。また、漢方薬や市販薬、サプリメントなどでも薬物性肝障害を起こす可能性があるため、薬剤の使用は注意が必要です。
自己免疫性肝炎
原因はよくわかっていませんが、血液検査で抗体の数値が高くなることから、免疫機能に異常があり、肝臓を障害していると考えられており、難病に指定されています。
1対4で女性に多い疾患で、自覚症状はほとんどないことが多く、血液検査の結果などから発見されるケースが多いようです。
健康診断で行う肝機能検査
肝臓は、脂肪やたんぱく質を使いやすい形にして蓄積し、必要な時にさらにエネルギーに変えて放出する、生きていくために必須の大切な臓器です。一方で肝臓には解毒という働きがあり、身体に取り込まれた様々な毒素を集め分解し、便や尿などから排出するという働きもあります。
そのため、肝臓には自然と毒素が集まり、それが過剰になると、自らがその毒素によって傷ついてダメージを受けてしまうことになります。
また、肝臓は比較的大きな臓器であり、多少のダメージでは、健康な細胞が代替として働いてしまうため、「沈黙の臓器」と言われるほど、自覚症状のあらわれにくいという特徴があります
そのため、黄疸やむくみなどの目に見える症状が出たときには、かなり進行してしまっていることもあります。
しかし、肝臓は自己再生能力も高く、何らかの異常が起こっても、初期のうちにしっかりと対処しさえすれば、健康的な日常生活を十分に取り戻せる部位です。
そして、症状のあらわれにくい肝臓の異常を早期に発見するために欠かせないのが、健康診断などで行う血液検査です。肝機能の障害は、自覚症状がなくても、血液検査の数値で肝臓の異常ははっきりとあらわれます。
ASTとALT
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)はともにアミノ酸を作るトランスアミナーゼという酵素でASTはGOT、ALTはGPTと表記されていることもあります。両者の違いは、ASTが肝臓以外の筋肉や赤血球中にも存在するのに対して、ALTはほとんどが肝臓にしか存在していない点です。
どちらも、炎症などによって肝臓や筋肉などが障害されると、血液中に放出され、血液検査の数値が上昇しますが、両者の存在する場所の違いによって、どの部位が傷んでいるのかを特定する重要な手がかりとなります。
たとえば、ALTのみ、またはALTとASTの両者が高い血中濃度を示しているときは、肝臓に障害が起こっていることが考えられます。逆にASTのみが高い血中濃度を示しているときは、心筋梗塞や筋肉の異常、溶血性の貧血などの異常が考えられます。
さらに、ASTとALTが血中に留まっている時間もALTの方が3~4倍程度長くなっているため、急性肝炎の場合は急激に肝臓細胞に異常が生じるためASTが多く、慢性肝炎や肝硬変、肝がんなどの場合は逆にALTが多いということが考えられます。
γ-GTP
γ-GTP(がんま・じーてぃーぴー)はガンマグルタミルトランスペプチダーゼという、たんぱく質を分解するアミノ酸の一種ですアルコールやその他の毒素を分解するために使われています。
通常は、胆嚢で生産されて肝臓で働き、使命を終えると十二指腸から排出されていきます。ところが、肝臓や胆嚢、胆管などに何らかの異常がある場合、うまく十二指腸から排出されず、逆流して血液中に排出されてしまいます。
そのため、この数値が高いケースでは、アルコール性の肝臓障害などが疑われるほか、胆嚢の異常、胆管結石など、胆嚢周辺に異常がある可能性が考えられます。
また、近年注目されている、アルコール性の異常以外に、肥満などメタボリックシンドロームに関係して起こるとされる非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)や非アルコール脂肪性肝炎(NASH)などを発見する手がかりともなっています。
ALP
ALPはアルカリフォスファターゼの略で、肝臓を中心に腎臓や腸壁、骨などに多く含まれて、リン酸化合物を分解する働きをもつ酵素の一種です。全身の様々な部位で作られたALPは肝臓で働いた後、最終的には胆汁に混ざって排出されていきます。
この胆汁の流れ道に、がんや胆道結石などの異常が起こり滞留すると、逆流して血液中のALPの値が高くなってきます。
このため、ALPの値は肝機能障害のほかに、胆嚢周辺の異常、また骨の異常などが考えられる重要な数値となっています。なお、広い範囲で生産される酵素ですので、この数値が異常を示している場合、どの部分の異常によるのかをしっかりと検査する必要があります。
総ビリルビン
ビリルビンは赤血球が使命を終えて分解されたときに出る、黄色の色素です。肝臓に運ばれた後、胆汁中に排出されて、胆汁の主成分の一つとなって体外へと排出されていきます。肝臓に入る前のビリルビン(間接ビリルビン)と、肝臓で処理された後のビリルビン(直接ビリルビン)を合わせたものを総ビリルビンと呼んでいます。
ビリルビンは、肝臓の機能に障害があると、処理されにくくなり、胆汁へ排出されることなく血中に放出され血中濃度が高くなっていくという仕組みと、もう一つ、胆管などの異常によって逆流し、血液中の濃度が高くなるという仕組みがあります。
そのため、総ビリルビン値は、肝炎、肝硬変、肝がんなどの肝機能障害と、胆嚢、胆管などの胆汁の経路に何らかの異常がある可能性を示しています。
このように、血液中に含まれる物質は、複雑に絡み合って、臓器の異常を示しています。多少数値が異常を示していても、自覚症状がないから、大したことがないとつい放置しがちなのが肝臓や胆嚢に関する異常です。しかし、繰り返しになりますが、自覚症状がなくても肝臓の障害はひっそりと進んでいて、何か不調が出たときには、かなり病状が進行してしまっているなどということもあります。
定期健康診断などで、上記のような項目の数値に異常を指摘された方は、専門医に相談し、しっかりと何がどの程度悪いのか、治療が必要なのか、日常生活を改める必要があるのかなどをチェックしてもらうことをお勧めします。なお、定期健康診断などに異常が見られた場合の再検査、および何らかの疾患が見つかった場合の治療は当院でも行っております。お気軽にご相談ください。
肝機能の精密検査
脂肪肝や肝臓の炎症は、軽度だから、自覚症状がないからと放置すると、やがて肝硬変や肝がんへと移行してしまう危険性があります。
肝硬変は、炎症に晒され続けた肝臓の細胞が正常に働かない繊維状のものに置き換わって表面が硬くなり、機能を果たさなくなってしまった状態で、放置すれば、肝臓の機能が失われて命にかかわる事態となります。
飲酒が多い、メタボリックシンドロームを指摘された、健康診断の血液検査で肝機能に関する数値に異常がでたといったケースでは、軽いものだからと放置せずに、必ず精密検査を受けるようにしましょう。
当院では以下のような精密検査を行っていますので、お気軽にご相談ください。
血液検査
通常の定期健診では、決められた項目の検査しか行っていません。しかし、精密検査では、肝炎ウイルスの有無や疑わしい機能に関する詳細な項目など、さらに精細な血液検査を行うことができます。
肝機能の数値に異常がある方の生活習慣改善方法
肝機能異常といっても、原因は様々考えられます。そのため、改善方法を一概にお伝えすることは難しいのが現状です。
しかし、普段の生活習慣を見直し、改善することで脂肪肝などを予防したりすることができます。
無理のない程度で、できるところから生活の改善を試みていましょう。
主食・主菜・副菜を揃えたバランスの良い食事
アミノ酸は人が生きていくために欠かせない栄養分です。世の中には500種類程度のアミノ酸があると言われていますが、このうち9種類のアミノ酸は必須アミノ酸といわれ、人が体内で生成することができず、食物から、たんぱく質として得るしかないものです。
これらをバランス良く摂取する必要があるため、偏ったものだけを食べないように心がけましょう。
また、肝臓は脂肪分を蓄積する働きがあるため、脂肪分の多い食事ばかりを摂っていると脂肪肝を起こしやすくなってしまいます。すべての栄養素をバランス良く摂るためには、毎日できるだけ多くの品目を適量食べることが大切です。
特に外食が多いと、つい主食に偏りがちです。意識的にサラダを追加注文するなど、偏らない食事を摂るように心がけましょう。
ビタミン・ミネラル・食物繊維を摂取する
肝機能が低下すると肝臓がビタミンを蓄える力も弱まります。緑黄色野菜やきのこ類、海藻類などのビタミンとミネラルを豊富に含む食材を積極的に食べましょう。特に、食物繊維は、腸から栄養素を吸収する時に、余分な糖や脂質の吸収を妨げ、吸着して便として排出してくれる働きがありますので、積極的に食べるようにしましょう。
良質なタンパク質を摂取する
肝臓のダメージを修復するには、良質なたんぱく質を補給することが大切です。大豆食品や魚介類、肉類、卵などを積極的に摂取するように心がけましょう。
ただし、肉類では、ソーセージやベーコンなどの加工食品は塩分などの取りすぎに繋がることもありますので、偏らないように気をつけましょう。
休肝日を設けましょう
アルコールは中性脂肪を作ります。通常の量であれば、肝臓がそれを処理してエネルギーにしたり排出したりしますが、アルコールを採りすぎると、処理が間に合わず、肝臓に脂肪が蓄積されすぎることになります。
適度な飲酒量を守ると同時に、必ず1週間に2日程度は飲酒を休む休肝日をつくりましょう。上手に休肝日を設けることによって、肝臓はアルコール分解から解放され、細胞を休ませることができます。
上手な休肝日のコツとしては、5日飲んで2日続けて休むという方式ではなく、3日飲んで1日休み、2日飲んで1日やすむというような方式のほうが効果的です。
適度な運動
無理のない程度に有酸素運動を取り入れることは、脂肪が代謝され、減量効果を得られるほか、肝臓の働きも亢進してくれます。
また、肝臓は体内で発生するアンモニアを解毒する働きもしていますが、筋肉にはその機能の一部を担ってアンモニア代謝の手助けをする働きがあります。
肝機能が衰えてしまっている場合も適度な運動によって、アンモニア代謝が補完されることになります。
ここで重要なことは、激しい運動をたまにするのではなく、継続しやすい程度の適度な運動をすることです。たとえば1日30分以上のウォーキング、軽いジョギングなどのほか、ゆったりと行うスクワットなども有効です。
運動習慣を身につければ、体脂肪も低下しますので、NAFLDなどの改善にも有効とされています。ぜひ生活に取り入れてください。