ピロリ菌感染症
ピロリ菌はヘリコバクターピロリという細菌で、通常は微生物が生息できない強酸性の胃の中で、自ら胃酸を中和する物質を生成しながら棲み着いています。非衛生な環境での経口感染などが考えられ、特に胃酸の分泌や免疫が不完全な幼少期に感染する傾向があります。ピロリ菌は胃や十二指腸の疾患に関わっていることが知られており、特に潰瘍の原因となることが多いため、除菌を必要とします。
除菌には、抗生物質と胃酸の分泌を抑える薬、胃薬がセットになった除菌キットを1週間服用します。その後、再検査で除菌が確認できなければ、再度1週間キットを服用します。
急性胃炎
急激に胃の粘膜に炎症を起こし、胃痛、胃部不快感、嘔吐などの症状が起こっている状態です。原因は、食べ過ぎや飲み過ぎ、ストレス、薬剤の副作用、アレルギーなど様々考えられます。通常、安静にしていれば数日で治りますが、症状が激しい場合は内服薬による治療を行います。
胃びらん(びらん性胃炎)
胃の粘膜の浅い部分が炎症を起こし、ただれてしまっている状態です。多くは急性ですが、慢性化してしまっていることもあります。急性の場合、吐き気や胃部不快感、胃痛などが主な症状ですが、慢性の場合自覚症状が無いことが多いのも特徴です。進行すると出血が見られることもあります。治療としては、軽症の場合、胃酸の働きを弱める薬での薬物療法、出血が多い場合は内視鏡を使って止血をします。
慢性胃炎
胃は粘膜に覆われていますが、炎症が長時間続いているために、粘膜がただれ、萎縮したような状態になっているのが慢性胃炎です。薬剤の副作用などが原因の場合もありますが、8割程度はピロリ菌によるものです。症状としては胃痛、胃部不快感、胸焼けなどがあります。ピロリ菌が原因の場合は除菌を行います。また、対象療法として胃酸の分泌を抑えるもの、胃粘膜を保護するもの、消化機能を整えるものなどによって薬物療法を行います。
十二指腸炎
十二指腸の粘膜がピロリ菌や胃酸、食物やアルコールなどによって傷つき、炎症を起こしいる状態です。軽症の場合、症状がないこともありますが、重症になってくるとお腹や背中が痛んだり、お腹が張った感じがしたりします。胃酸の分泌を抑える薬など薬物療法を行います。
胃潰瘍
胃の皮膚は粘膜層、粘膜筋層、粘膜下層、筋層、漿膜という層構造になっています。粘膜層に炎症を起こしてできた傷が浅く粘膜層に留まっているうちは「びらん」と言いますが、この傷が粘膜下層まで到達してしまうと「潰瘍」になります。この状態が胃で起きたものが胃潰瘍で、原因としてはピロリ菌、薬剤、アルコール、ストレスなどが考えられます。
症状は胃痛、みぞおちの痛み、胸焼けや呑酸(げっぷ)などで、重症化した場合は吐血や黒色便の下血などを起こします。
治療としては、軽症のうちは胃酸を抑え胃の粘膜を保護する薬による薬物療法を行い、出血がある場合は内視鏡によって止血を行います。ピロリ菌の感染が確認された場合は除菌を行うことによって、再発の可能性を大きく減らすことが可能です。
十二指腸潰瘍
潰瘍が十二指腸で起こった状態で、原因としては、薬剤やアルコールによるものなどもありますが、多くはピロリ菌感染によるものです。十二指腸の皮膚は胃と比べて薄くなっているため、潰瘍が漿膜まで達して孔が開いてしまう「穿孔」を起こしやすく、早急に治療を行う必要があります。なお、治療に関しては胃潰瘍と同様、内服薬を中心に、出血がある場合は内視鏡による止血を行います。十二指腸潰瘍にもピロリ菌の除菌が大切になってきます。
萎縮性胃炎
胃の炎症が慢性化してしまったことにより、胃の粘膜が萎縮し、胃酸を分泌する組織が縮小してしまった状態です。原因の多くはピロリ菌感染によるもので、治療としてはピロリ菌の除菌を行います。
萎縮性胃炎になると、胃がんの発症リスクが高まっていますので、定期的に内視鏡検査を行って経過観察する必要があります。
胃がん
日本人の胃がんの発症率は、近年、内視鏡検査技術の発展やピロリ菌除菌の普及などから、徐々に減ってきている傾向にあります。それでも2019年の統計では男性では2位、女性では4位、総合で3位と高い罹患率となっています。
胃がんの発症にはピロリ菌が関与していると指摘されています。また、胃がんは禁煙や飲酒、塩分の過剰摂取などにも影響を受けます。初期の段階では、あまり症状がなく、進行してから症状が現れることもあります。そのため、定期的に胃カメラ検査を行い早期発見・早期治療することが重要とされています。
早期発見することで、胃がんは内視鏡治療が可能な疾患です。そのため、胃がんの発症リスクを高めるピロリ菌が見つかった場合は除菌治療を受け、そうでない場合も定期的に胃カメラ検査を受けることをお勧めします。
胃底腺ポリープ
胃の底部にある粘膜の組織が正常より増えてしまったことで隆起したものです。ピロリ菌に感染していない、健康な胃に発症することが多いもので、内視鏡で観察すると、他の組織と同様の色を呈するのが特徴です。腫瘍とは構造が異なり、悪性化することはほとんどありません。ポリープは多数できたり、大きくなったりすることもありますが、まず治療の必要はなく、定期的な内視鏡検査などによる経過観察を行います。
過形成性ポリープ
過形成ポリープも、細胞が増えすぎることによって生じるものですが、内視鏡で観察すると、明らかに通常組織と異なる赤い色を呈しています。一般的には良性であり、ほとんど悪性化することは無く、特に治療せず経過観察を行います。しかし、20mm以上と大きくなりすぎる、放っておくと増えてくる傾向にあるもの、出血する傾向が高い物などは内視鏡下で切除を検討します。
機能性ディスペプシア(FD:Functional Dyspepsia)
胃炎や胃潰瘍、胃がんなどで感じる胃部の不快感などの諸症状があるにもかかわらず、胃カメラ検査など検査をしても、どこにも異常がみつからない状況です。
これは、胃には食べた食物をある程度溜めて十二指腸方向へと送り出す機能がありますが、この工程のどこかに異常を生じていることを敏感に感じとってしまうことで、実際には炎症やびらん、潰瘍などの症状が起こっていないのにもかかわらず、胃部の症状を感じてしまうことが原因ではないかと言われています。
治療は胃の活動を穏やかに抑える薬や、胃の機能を改善する薬などのほか、過敏さを抑えるために抗うつ薬などの精神症状を抑える薬などによる薬物療法を行います。
アニサキス症
サバ、イカ、サケ、サンマなどに寄生する海の寄生虫の幼生です。これらの魚介類を加熱や酢漬け処理などが不十分なまま食べることによって、アニサキスの幼虫は胃壁などの粘膜に潜り込んで寄生しようとします。
まるで潰瘍でも起こったような痛み、吐き気、嘔吐などを起こすことが特徴です。
放置しても一般的には胃酸などで死滅し、1週間程度で症状が治まることが多いのです。しかし、体調不良などで胃の働きが弱っていると、幼生が胃壁の深くまで入り込み、胃穿孔を起こすこともあります。
アニサキスは内視鏡で取り除くことができますので、生の魚を食べて、激しい胃痛などの症状を感じたら急いで当院までご相談ください。